【海外の動き】タイ カーボンニュートラルの実現と「国家エネルギー計画」

事務局より海外の脱炭素・環境に関する動向をお届けします。

●タイ カーボンニュートラルの実現と「国家エネルギー計画」

パリ協定に基づいてタイが昨年10月に提出した「国が決定する貢献」(NDC; Nationally Determined Contribution)および「温室効果ガス低排出に関する長期開発戦略」(LTS; Mid-century, Long-term Low Greenhouse Gas Emission Development Strategy)の中で、タイ政府は、2030年を温室効果ガス排出のピークとしてその後徐々に削減し、今世紀後半での排出量ネットゼロおよび2065年までのカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。これを受けて、2018年に定められたタイ国家戦略(National Strategy)をはじめ、エネルギー分野、交通分野、廃棄物分野などにおいて既に定められている各種中長期計画等を修正し、NDC等との整合性をとる作業が進められている。

エネルギー分野では、電力開発計画(PDP; Power Development Plan)、省エネルギー計画(EEP; Energy Efficiency Plan)、代替エネルギー開発計画(AEDP; Alternative Energy Development Plan)、ガス計画(Gas Plan)、石油計画(Oil Plan)の5つの計画によって構成される総合的なエネルギー計画「タイ長期エネルギー計画」(TIEB; Thailand Integrated Energy Blueprint)がその対象となる。中心となる電力開発計画は、2018年に定められたPDP2018をベースにし、発電所建設計画の遅延等の影響を加味して2020年10月に一部改定された「PDP2018 Rev.1」が現時点での最新版である。

現在、エネルギー省では、これらの計画を刷新し、「国家エネルギー計画」(National Energy Plan)を策定する作業が進められている模様だが、未だその概要は明らかにされていない。原案の策定後、パブリックコメントを経て本年中には発表されるものと目されているが、電力開発の観点では、排出削減と経済性とのバランスの観点からの最適再生エネルギー比率、グリッド効率化・増強と余剰再生エネルギーの活用方法、水素、アンモニア等、新エネルギー発電技術の計画折込といった点が議論の焦点となると見られる。

また、有望な新エネルギーの一つである水素に関しては、その生成・利用について、発電分野のみならず各方面から関心が高まっている。2月7日には、IEEE Power & Energy Society タイ支部が「Hydrogen Production Technologies」と題し、グリーン水素からブルー水素、グレー水素まで様々な水素の製造技術に関するオンラインセミナーを開催し、300名以上の聴講者を集めた。また、経済産業省が行う「質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業費補助金(我が国によるインフラの海外展開促進調査)」の令和3年度採択案件の一つとして、Toyota Motor Thailand Co., Ltd.ほか日系企業数社が、タイ国工業団地公社(IEAT)、タイ石油公社(PTT)などとの協同により、水素を含む再生可能エネルギーの開発、生産、使用、貯蔵を一貫して行うシステムを取り入れた「カーボンニュートラル工業団地」の実現を目指す動きもある。今後、タイにおいては水素をめぐる動きが徐々に活発化していく可能性もある。

昨今の脱炭素化の世界の潮流はかなりのスピードをもって進んでおり、パリ協定の締結によって、これまで工業化・産業発展による国力強化を中心とした産業政策をとってきた途上国・中進国は、ここにきて多少なりとも脱炭素の視点での再検討を余儀なくされている。まさに「持続可能な開発」を体現することが果たして可能なのか。ASEANでもっとも産業集積が進展するタイが、その産業経済規模維持と環境配慮のバランスをどのようにとるのか。策定中の「国家エネルギー計画」の中身に注目したい。

(日本テピア株式会社)