【海外の動き】ネットゼロ排出に向け都市の果たす役割が増大
事務局より海外の脱炭素・環境に関する動向をお届けします。
●ネットゼロ排出に向け都市の果たす役割が増大
2021年7月23日、イタリアが主催するG20気候・エネルギー大臣会合がイタリア・ナポリで開催され、日本から小泉環境大臣等が参加した。会合では、カーボンニュートラルの実現に向け、気候変動対策の強化や、エネルギー転換の重要性等について議論が行われ、閣僚声明が採択された。国際エネルギー機関(IEA)は同7月22日、同会合に向けネットゼロの将来に向けて都市の重要性に焦点を定めた報告書(“Empowering Cities for a Net Zero Future”)を公表した。[1]
同報告によると、世界全体に占める都市の割合は、人口50%以上、経済生産高80%、エネルギー消費3分の2、炭素排出量70%以上となっている。また、2050年までには世界人口の70%以上が都市に住むようになり、その結果、都市部でのエネルギーインフラ需要がきわめて大きな伸びを示すと予測している。このためIEAは、環境問題の解決にあたっては都市の果たす役割がますます強まるとみている。
都市の影響力はますます強まっていく
出典:IEA
IEAは、持続可能なエネルギーへの転換にあたってデジタル化が大きな役割を果たすとみている。大気の質やエネルギー消費、地理空間情報、交通パターンに関する豊富な情報に加えて、こうしたデータを処理する新しい手段も利用可能になってきており、都市計画などの意思決定に際して都市がより良い情報に基づいた賢明な意思決定を行ううえで役立つとしている。デジタル化は、クリーンエネルギープロジェクトの民間投資の促進やリスク低減のほか、新規ビジネスの創出などにも貢献する。
IEAは、デジタル化とスマート制御によって建物からの二酸化炭素の排出量を2050年までに3億5000万トン抑制できると試算している。スマートセンサーやサーモスタットと照明制御等の建物のデジタルソリューションによってエネルギーの効率的な利用につながるだけでなく、持続可能なエネルギー使用につながるライフスタイルの変更をもたらすという見方も示している。建物のエネルギー効率とエネルギー需要を最適化できなければ、気候目標を達成することはできないとしており、とくに都市の行動が絶対に必要としている。
都市交通の排出量は、二酸化炭素換算で輸送部門全体の排出量の40%以上に相当する40億トンに達している。デジタル技術によって交通分野は大きな変化を遂げている。IEAは、輸送部門の電化と電気自動車の普及は、スマート充電やV2G(vehicle to grid= 電気自動車など次世代自動車の蓄電池を電力系の蓄電池として利用する仕組み)などの柔軟なサービスによって各種の再生可能エネルギーの一体化につながるとみている。また、時間帯別料金戦略は、EVを充電するために必要な発電設備容量の約60%をピーク負荷から離すことができると見積もっている。
エネルギーシステムへの都市の影響
出典:IEA
IEAは、国や地方政府、市民主導の活動がデジタル化による都市のエネルギー転換の加速にあたって重要な役割を果たすとみている。とくに国と地方の活動の調整を行い、資源の最適利用をはかるとともに、地方レベルではできない仕事に国の努力を集中することが重要との見解を示している。同報告は、国の政策立案者に対して、以下の勧告を行っている。
- 中核となる人々と包括的な政策やプログラムを設計する
- デジタル化とエネルギー全体で能力を構築する
- データへのタイムリーで堅牢かつ透明なアクセスを確保する
- 資金の利用可能性を確保し、金融の革新を促進する
- 国際的な基準やベンチマークの作成、取り込みを促進する
- 共有と学習の機会を設ける
IEAは、ネットゼロのアジェンダを実現するにあたって地方政府が特別な立場にあるとの見方を示している。また、地方政府や中央政府間の協力を強化することが、公平なエネルギーへの移行を促進しながら、共通の目的を達成するうえで不可欠だと結論している。
(日本テピア株式会社)
[1] “Empowering “Smart Cities” toward net zero emissions”(https://www.iea.org/news/empowering-smart-cities-toward-net-zero-emissions)
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